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大阪高等裁判所 平成4年(う)406号 判決 1994年4月14日

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用中、国選弁護人に関する分はその二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(控訴趣意と答弁)

本件各控訴の趣意は、弁護人藤井義夫及び被告人作成の各控訴趣意書に記載のとおりである(但し、被告人作成の控訴趣意書は「初めから五枚目表三行目まで」及び「八枚目裏一〇行目から同一五行目まで」を陳述した。)。そして、弁護人の控訴趣意に対する答弁は、検察官足達襄作成の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。

(当裁判所の判断)

第一  原判示第一の一の事実について

一  原判決の認定の要旨

原判示第一の一の事実の要旨は、「被告人轟は、被告人有限会社すずやの代表取締役として、同社の業務に関し、株式会社バンダイ(以下、「バンダイ」という。)が著作権を有する映画著作物「魔法のプリンセスミンキーモモVOL4」ほか一作品(以下、「本件映画著作物」という。)及び右映画の映像とともに録音された社団法人日本音楽著作権協会(以下、「日本音楽著作権協会」という。)が著作権を有する音楽著作物「魔法のプリンセスミンキーモモ背景音楽」ほか二曲(以下、「本件音楽著作物」という。)の複製ビデオカセットテープ合計七本を、右著作権者らの許諾を得ずに複製されたものであることの情を知りながら、米田孝一をして、昭和六二年四月七日ころから同月二二日ころまでの間、五回にわたり、北九州市内の「ビデオハウス現代」店舗内ほか三か所で、四名に対し、代金合計一万一九五〇円を販売させて頒布し、もって、右バンダイらの著作権を侵害した。」というものである。

二  弁護人の控訴趣意第三に対する判断

論旨は、本件映画著作物及び本件音楽著作物の著作権侵害について適法な告訴がないから、本件にかかる公訴は棄却されるべきであるのに、原判決が実体判決をしたのは、不法に公訴を受理した場合にあたる、というのである。

しかしながら、後に述べるとおり(第一の三の1ないし3、第一の四の3、4)、所論がその根拠とする諸点はいずれも理由がなく、本件映画著作物及び本件音楽著作物の著作権侵害について適法な告訴がなかったとはいえないから、論旨は理由がない。

三  弁護人の控訴趣意第二の一及び被告人の控訴趣意中左記1の主張に対する判断

論旨は、原判決は次の四点において判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りがある、というのである。

1 本件映画著作物の著作権侵害の告訴権者について

所論は、原判決は本件映画著作物の著作権侵害行為に対してバンダイが告訴権を有すると判示しているが、これは、法令の解釈適用を誤ったものである、というのである。

しかしながら、後に述べるとおり(第一の四の3、4)、本件映画著作物の著作権侵害行為に対する告訴権がバンダイにあったことが明らかであるから、所論は理由がない。

2 本件音楽著作物の著作権侵害の告訴権者について

所論は、原判決は本件音楽著作物の著作権侵害行為に対して日本音楽著作権協会が告訴権を有すると判示しているが、これは、法令の解釈適用を誤ったものである、というのである。

しかしながら、本件音楽著作物の著作権者らが日本音楽著作権協会に対して著作権の管理を信託していることが関係証拠によって明らかであるところ、右信託にかかる著作権信託契約約款一〇条は、「受託者は、信託著作権及びこれに属する著作物使用料等の管理に関し、告訴し、訴訟を提起することができる。」と定めているのであるから、同協会が本件音楽著作物の著作権侵害行為に対して告訴権を有することは明らかである。所論は理由がない。

3 本件映画著作物の著作権侵害の告訴期間の起算日について

所論は、原判決はバンダイが本件映画著作物の著作権侵害の事実を確定的に認識したのは昭和六三年九月一二日であるとし、告訴期間はバンダイにおいてその確定的な認識があった同日から起算されると判示しているが、これは、刑訴法二三五条の親告罪の告訴の起算日につき法令の解釈適用を誤ったものである、というのである。

そこで、原審で取り調べられた関係証拠をみると、後に述べるとおり(第一の四の3)、本件告訴当時バンダイが本件映画著作物の著作権の一部であるビデオ化権を有したものであるが、バンダイは、昭和六三年九月一二日福岡県東警察署担当係官から、被告人有限会社すずやが本件映画著作物の無許諾複製物を販売した事実及び被告人轟が無許諾複製物たる情を知っていた事実が判明した旨を知らされ、本件映画著作物の著作権侵害の事実について説明を受け、初めて具体的な犯罪事実を知るに至り、同年九月二〇日福岡県東警察署長に対し、本件映画著作物、頒布先及び侵害態様等の犯罪事実を特定して被告人有限会社すずや及び被告人轟を無許諾複製物を頒布した著作権侵害により告訴したことが認められる。そして、本件では、バンダイが右のように警察から説明を受ける以前において、いかなる著作物につきどのような態様で著作権が侵害されたかという概括的な事実を認識していたと認められる事情は存しないのであるから、結局、告訴期間はバンダイが警察から説明を受けてこれを初めて知るに至った同年九月一二日から起算されるべきものである。

所論は、昭和六三年二月末ころ被告人轟が「当社は過去数度にわたって貴社の所有される作品の著作権を侵害致しました。」と記載した陳謝状をバンダイの子会社である株式会社エイ・イー企画に提出して陳謝しているところから、告訴期間は同年二月末日から起算されるべきものであると主張するが、右文書では、いかなる著作物についてどのような形で著作権の侵害行為があったのか不明であるから、これによって告訴権者が本件映画著作物の著作権に対する侵害行為を概括的にしろ認識していたとは認められず、したがって、右所論は失当である。

4 本件映画著作物の著作権のみなし侵害行為について

所論は、原判決は著作権法一一三条一項二号のみなし侵害行為が同法一一九条一号の著作権侵害行為に該当すると判示しているが、これは、法令の解釈適用を誤ったものである、というのである。

しかしながら、著作権法がみなし侵害行為について特に刑事罰の対象から除く旨を規定していない以上、本件で、被告人轟が被告人有限会社すずやの業務に関し本件映画著作物の無許諾複製物を情を知って頒布した行為が、同法一一三条一項二号により本件映画著作物の著作権を侵害する行為とみなされ、それが同法一一九条一号の著作権侵害行為に該当することは明らかであるから、所論は理由がない。

四  弁護人の控訴趣意第一の一及び被告人の控訴趣意中左記2、3の主張に対する判断

論旨は、原判決には次の四点において判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して検討する。

1 本件映画著作物の無許諾複製物の販売者について

所論は、本件映画著作物の販売は有限会社九州すずやの代表取締役である米田孝一が同会社の業務に関してこれを行ったものであるのに、原判決が被告人轟が被告人有限会社すずやの代表取締役として同会社の業務に関してその販売をしたと認定したのは、事実誤認である、というのである。

調査すると、被告人轟はビデオカセットテープの販売及び賃貸等を目的とする被告人有限会社すずやの代表取締役として同社の業務全般を統括し、その業務に関し、本件映画著作物の無許諾複製物を有限会社すずや九州支店に送付し、同支店長である米田孝一を介してその販売をしたことは関係証拠によって明らかである。有限会社すずや九州支店は昭和六一年二月に被告人轟が米田孝一を支店長にして営業を開始し、被告人轟の発案で法人化することとし、被告人轟及び米田が共同出資をして、昭和六二年三月に有限会社九州すずやが設立され、米田孝一がまず代表取締役に就任し、次いで被告人轟も代表取締役に就任しているが、本件当時有限会社九州すずやが営業活動をしていなかったことは、有限会社すずや九州支店が従前どおりその名義で営業を行っていたことなどから明らかであり、米田孝一が有限会社九州すずやの代表取締役としてその業務に関して本件映画著作物の無許諾複製物を販売したとみる余地はない。もっとも、有限会社すずや九州支店では独立採算制が取られていたことが認められるが、それは、被告人轟が同支店の利益を挙げさせるなど営業目的上とった措置であって、同支店が被告人有限会社すずやから独立して営業活動を行う権限がなかったことは、被告人轟及び米田の捜査段階における関係各供述によって明らかである。所論は理由がない。

2 本件映画著作物の無許諾複製物の認識について

所論は、被告人轟は本件映画著作物の著作権侵害にかかる各ビデオカセットテープが無許諾複製物であることの情を知らなかったのに、原判決がこれを認めたのは、事実誤認である、というのである。

しかしながら、原判決の挙げる被告人轟の警察官調書によると、被告人轟は本件映画著作物の著作権侵害にかかる各ビデオカセットテープが無許諾複製物であることを知っていたというのであり、この供述は、本件各ビデオカセットテープの販売ルートや販売価格と真正品のそれとの違いなどの客観的事情と照応し、十分に信用できる。所論に沿う被告人轟の原審及び当審公判廷における供述はこれと対比して信用できない。所論は理由がない。

3 本件映画著作物の著作権者について

所論は、本件映画著作物の著作権者が株式会社葦プロダクション(以下、「葦プロ」という。)であるのに、原判決がこれをバンダイであると認定したのは、事実誤認である、というのである。

調査すると、本件映画著作物は葦プロが「魔法のプリンセスミンキーモモ」シリーズとして製作した映画著作物であり、葦プロが映画製作者としてその著作権を原始的に取得したものである(この点に関して原判決は、「葦プロが本件映画著作物の著作者として著作権及び著作者人格権を有する。」と判示しているが、これが著作権法の規定に照らして正確でないことは所論指摘のとおりである。)ところ、原判決は、所論のように葦プロが本件映画著作物の著作権者であることを否定しているものではなく、また、バンダイがその著作権の全部を有するとしているものでもなく、その一部であるビデオ化権を有すると判断しているものである。このことは原判決が、「昭和五八年一一月に葦プロが本件映画著作物の著作権の一部であるビデオ化権をバンダイのみに譲渡したこと、昭和六〇年三月にバンダイの機構改革により右ビデオ化権はバンダイから株式会社ネットワーク(以下、「ネットワーク」という。)に譲渡され、更に昭和六三年三月にバンダイグループの映像関連事業の組織再編に伴い、これがネットワークからバンダイに再譲渡されたことが認められ、バンダイが本件映画著作物の著作権の一部であるビデオ化権を有する。」旨を判示しているところから明らかである。ところで原判決は、「葦プロとバンダイとの間に昭和五八年一一月に締結された本件映画著作物の著作権に関する契約(以下、「本件契約」という。)は、債権的な著作物利用許諾契約ではなく、著作権の一部であるビデオ化権の物権的な譲渡契約である。」旨を判示しているところ、所論は、本件契約は譲渡契約ではなく、著作物の利用許諾契約であると主張する。しかして、本件契約については、双方間の明文による契約書が存在していないところ、原審及び当審における証人染谷幹人の証言によれば、「本件契約は、<1>ビデオ化権の譲渡である。<2>ビデオ化権とは、ビデオを複製・頒布・上映する権利である。<3>契約期間は三年の自動延長である。<4>対価は、まず最初に一〇〇〇本分のロイヤリティーをミニマムギャランティーとして支払い、その後、販売本数に応じたロイヤリティーを一〇〇〇本以上売った場合に支払われることになっていた。<5>その後バンダイは子会社のネットワークにビデオ化権を譲渡し、更にネットワークから再びバンダイにこの権利が譲渡された。」というのである。そこで、この証言をもとにしたうえ、当審で取り調べた鑑定人半田正夫作成の鑑定書をも参酌し、本件契約の性質を検討するに、右<1>及び<2>からみるならば、本件契約は著作権の一部であるビデオグラムの形態における複製権・頒布権・上映権の譲渡であり、加えて<3>によれば、契約期間の定めがあり、本件契約は期限付譲渡とみられないではない。しかしながら、本件契約では、<4>のとおり、対価の支払方法につき、許諾による著作物使用の際に一般に利用されるロイヤリティー方式が取られていることや、前記染谷が原審証言で「著作権そのものの譲渡があったわけではない。」と述べていることなどに照らすと、本件契約は、ビデオグラムの形態における複製権・頒布権・上映権の期限付譲渡ではなく、複製・頒布・上映についての排他的許諾契約と解するのが相当である。しかるところ、葦プロ作成の昭和六三年九月二〇日付の証明書(検九二号)には、「弊社は本件映画著作物の著作権の一部であるビデオ化権(ビデオグラムの形態における複製・頒布・上映権)をバンダイに譲渡した。」旨の記載がなされている。その趣旨については、昭和五八年の本件契約を双方がビデオ化権の譲渡契約であることを改めて確認し、これを証明したものであるのか、それとも、本件契約から昭和六三年九月二〇日までの間に双方が新たなビデオ化権の譲渡契約を結んだ旨の証明であるのか、必ずしも明らかではない。しかしながら、もし前者の趣旨であるとするならば、その文中に本件契約との関連について記述をする必要があると考えられるが、この点につき触れた部分は一切認められない。のみならず、葦プロ作成の右証明書はバンダイ作成の告訴状と同一日付であり、告訴の際、つまり告訴状提出の際に告訴状の資料として添付された証明書と同じ内容のものと認めるに難くはなく、したがって、葦プロにおいても、その事柄の内容及び事情などを知ったうえで右証明書を作成したものと推認するに十分である。そうであれば、葦プロ作成の右証明書は本件契約とは無関係で、これとは独立して本件契約締結後遅くとも昭和六三年九月二〇日までの間に新たにビデオ化権の譲渡契約、いわゆる無期限譲渡契約が成立した趣旨を述べたものと解するのが相当である。してみると、バンダイが本件映画著作物の著作権の一部であるビデオ化権を有することが明らかであるから、結局、所論は理由がない。

4 本件映画著作物の著作権侵害の被害者について

所論は、本件映画著作物の著作権侵害当時における著作権者はバンダイではなく、ネットワークであるのに、原判決がバンダイの著作権を侵害したと認定したのは、事実誤認である、というのである。

しかしながら、著作権に対する侵害はその性質上著作権の存続する限りこれに影響を及ぼすものであるから、侵害を受けた著作権の承継人はその権利の主体として被害者たる地位を取得し、また著作権の譲渡以前に発生した侵害についても告訴権を有するものと解せられ(大審院大正七年七月一七日判決・刑事判決録二四輯九八〇頁参照)、したがって、原判決が本件告訴当時におけるバンダイの著作権(ビデオ化権)を侵害したと認定したことに誤りはなく、所論は理由がない。

第二  原判示第一の二の事実について

一  原判決の認定の要旨

原判示第一の二の事実の要旨は、「被告人轟は、被告人有限会社すずやの代表取締役として、同社の業務に関し、パラマウントピクチュアーズコーポレーションほか三社が著作権を有する映画著作物(「恋落ちて」ほか五作品)の複製ビデオカセットテープ合計六本を、右著作権者らの許諾を得ずに複製されたものであることの情を知りながら、昭和六一年一〇月二二日ころから昭和六二年一二月一八日ころまでの間、八回にわたり、京都府城陽市内の有限会社すずや店舗内ほか一か所で、同店従業員らをして、七名に対し、料金合計七四〇〇円で貸与させて頒布し、もって、パラマウントピクチュアーズコーポレーションらの著作権を侵害した。」というものである。

二  弁護人の控訴趣意第二の二に対する判断

論旨は、原判決は著作権法一一三条一項二号のみなし侵害行為が同法一一九条一号の著作権侵害行為に該当すると判示しているが、これは、法令の解釈適用を誤ったものである、というのである。

しかしながら、所論の点については、先に本件映画著作物の著作権のみなし侵害行為につき判断したのと同一の理由により、これを採用することができず、論旨は理由がない。

三  弁護人の控訴趣意第一の二に対する判断

論旨は、原判示第一の二の別紙二貸与一覧表中番号6ないし8の各ビデオカセットテープにつき、被告人轟は無許諾複製物であることの知情も貸与の故意もなかったのに、原判決がこれを認めたのは、事実誤認である、というのである。しかしながら、被告人轟の捜査段階における関係供述によれば、所論指摘の貸与一覧表中番号6ないし8(なお、原判決の同表中番号6の貸与相手方「向浩和」とあるのは「向清和」の誤記と認められる。)の各ビデオカセットテープにつき無許諾複製物であることの知情も貸与の故意もあったことが認められ、このことは、有限会社すずやの従業員らの関係供述によっても十分に裏付けられているところである。所論に沿う被告人轟の原審及び当審公判廷における供述はこれと対比して信用できない。論旨は理由がない。

第三  原判示第二の各事実について

一  原判決の認定の要旨

原判示第二の各事実の要旨は、「被告人轟は、<1>昭和六二年六月二六日ころから昭和六三年二月一〇日ころまでの間、二八回にわたり、前記有限会社すずや店舗内ほか一か所で、同店従業員らをして、七名に対し、わいせつビデオカセットテープ二九本を代金一万四九〇〇円で貸与させて頒布した。<2>米田孝一と共謀し、昭和六二年八月二一日ころから同年一〇月二六日ころまでの間、七回にわたり、福岡県直方市内の「ビデオショップマリヤ」ほか二か所で、三名に対し、わいせつビデオカセットテープ三四本を代金合計一九万一四〇〇円で販売した。<3>販売の目的をもって、昭和六三年三月二日ころ、京都府城陽市内の有限会社すずや本店で、わいせつビデオカセットテープ二九本を所持した。」というものである。

二  弁護人の控訴趣意第一の三に対する判断

論旨は、原判決が本件各ビデオカセットテープのわいせつ性を認めたのは、事実誤認である、というのである。

しかしながら、本件各ビデオカセットテープはその内容の大半において男女の手淫、口淫、性交等の場面を描写したものであり、所論のいうようにボカシが入っていても、それが薄くて容易に性器等を識別することができるうえ、ボカシが入っていない場面も散見されるなど、社会通念上わいせつ性を有することが明らかであるから、論旨は理由がない。

第四  原判示各事実について

一  原判決の認定の要旨

原判示各事実の要旨は、前掲のとおりである。

二  弁護人の控訴趣意第四に対する判断

論旨は、原判決の量刑が不当である、というのである。

しかしながら、被告人有限会社すずやはビデオカセットテープの販売及び貸与等を営み、被告人轟は同社の営業の一環として無許諾複製物たるビデオカセットテープ及びわいせつビデオカセットテープを安く仕入れ、これを継続的に頒布するなどしているもので、犯行の罪質、動機、態様など諸般の事情に徴するときは、所論指摘の点を考慮しても、原判決の量刑(被告人有限会社につき罰金五〇万円、被告人轟につき懲役一年二月、三年間執行猶予)が不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

(なお、原判決は、法令の適用において、被告人両名の原判示第一の一及び二の各所為は、それぞれ別紙一及び同二の各頒布行為ごとに犯罪が成立し、併合罪の関係にあるとし、また、被告人轟の原判示第二の一及び二の各所為は、それぞれ別紙三及び同四の各頒布行為ごとに犯罪が成立し、原判示第二の三とともに併合罪の関係にあるとして、それぞれの処断刑を導いている。

しかしながら、原判示第一の一及び二については、著作物ごとに包括的に各著作権に対する侵害罪が成立し、同第一の一では映画著作物と音楽著作物が合体しているから、観念的競合となると解するのが相当であり、また、原判示第二の一及び三、原判示第二の二は、それぞれ包括一罪を構成するものと認めるのが相当である。そうとすると、原判示第一の一及び二の罪並びに原判示第二の一ないし三の罪に関する原判決の罪数評価には誤りがあるといわざるを得ないが、被告人有限会社すずやについては、右の誤りによって罰金額の多額の合算額が正当な合算額を超えることになるものの、原判決の言渡しにかかる罰金額(五〇万円)が正当な合算額の範囲内にあり、しかも、法定の罰金額の上限(一〇〇万円)の半分にとどまっていることなどに徴するときは、その誤りは明らかに判決に影響を及ぼすものとはいえず、また、被告人轟については、右の誤りによって処断刑の範囲に差を来すものではないから、その誤りは明らかに判決に影響を及ぼすものとはいえないというべきである。

また、原判決の罪となるべき事実第一の二の三行目に、ビデオカセットテープ合計「六本」とあるのは、「一〇本」の誤記と認める。)

(結論)

よって、刑訴法三九六条、一八一条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

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